クレアは俺達と話しながら周囲に一つずつ異なる属性の玉を浮かべ始めていた。
「そこまで扱えるなら今更になるとは思いますが、一応おさらいとして軽く基本からお話ししましょうか。複数属性を同時に扱う一番のメリットは魔法同士の相乗効果を狙えることです。分かり易いのは火と風ですね。上手く扱えれば風で火の勢いを増すことができます。火と水なんかは相手の魔法を打ち消す使い方もしますが、同時に操る場合は水蒸気爆発させることもできます。これはかなり高威力で制御できないと上手くいきませんけど。三属性以上になるとさらにその効果や威力を強化できることが多いのですが、あまり実践で使われることはないみたいですね」
「そもそも三属性を扱える魔導士の数が多くありませんし、扱えたとしても制御難度が格段に上がりますから。失敗したら隙を晒すだけでなく味方に被害を及ぼす可能性まであるので実戦で使える魔導士は一握りでしょう。複雑になるほどその規模も大きくなりがちですし・・・」そう答えながらもカサネの目はクレアに釘付けになっている。
彼女は六つに増えた玉を近づけていき徐々に融合させていた。やがて一つになった玉は多少大きくなった程度だが、その内部では各属性が絡み合う様に影響しながらも調和を保っていた。「・・・ふぅ。これが六属性の同時制御、今回の最終目標です。私もこんなことは滅多にしないので少し緊張しましたけど」
「それ、もし何かにぶつけたらどうなるんだ?」 「これですか?これはあくまで見本として作ったので攻撃能力はあまりないですよ。この中庭にクレーターを作る程度でしょうか」何でもないことのように言ったが中庭は二、三十メートルほどはある。
そこにクレーターを作る威力と言うのはどれほどのものなのか。 しかもクレアさんはそれで攻撃能力はあまりないと言っているのだ。(・・・例の魔法よりクレアさんの全力の方が危険なんじゃないか?)
思わずそんな考えが頭を過ぎった。しかしクレアさんの性格を考えればそもそもそんなことはしないだろう。
「あの、それでそれはどうするの?」
「これですか?どうもしませんよ。最終的な目標を先に見て貰ったほうがイメージしやすい魔法修練を開始して数日が経ち、カサネは四属性を制御できるようになっていた。元々四属性の扱いに慣れていたカサネの方がミアよりも一歩リードしている形だ。それを見た時のミアは「負けるもんか~!」と熱意を燃やしていた。 そんなある日、スフィリムの了承も得て予定も経ったため、以前に話していた女子会をすることになった。 その日は学園は休みであったため、朝からスフィリムが屋敷にやってきた。「初めましてクレアの親友のスフィリムです!」 「親友って、もうスフィリムったら。。」 「初めまして、私はミアです。今はクレアさんに魔法を習っているのよろしくね」 「こんにちは。学園祭の時以来ですね。覚えてるかしら?」カサネがそう聞くとスフィリムはウンウンと首を縦に振って答えた。「もちろんです!カサネさんのような綺麗な人忘れるわけないですよ~。ミアさんもビックリするくらい綺麗ですけど。実は貴族のお茶会みたいなのだったりしません?私場違いだったりしないですか?」 「ありがとう。でも、そんなことないわよ。今日は気分転換に楽しもうっていうだけだから気楽に行きましょう」ミアは現在変装用の魔道具は着用していない。折角みんなで楽しもうという時に最初から姿を偽るのはどうかと思ったからだ。流石に王女であることは話せないので貴族の娘という自己紹介になったが。 そうして自己紹介を終えた後は、お互いのことについて軽く話をした。「クレアさんは生まれつき六属性持ちだったんですよね?やっぱり魔法の扱いとかも直ぐに上達されたんですか?」 「いえ、多少早かったかもしれませんが人並みだと思います。両親が早くに他界しておじいちゃんのところでお世話になることになったんですけど、少しして鑑定で六属性持ちだったことが分かったんです。おじいちゃんは喜んでくれたんですけど、特に強制されるようなことはなくて。私はおじいちゃんが喜んでくれたのが嬉しくて、自分から色々と勉強するようになってました。優秀な師が側に居たのも大きかったのかもしれません」 「そう、だったんですね。その、安易に聞いてしまってすみません」確かにクレアの両親には会ったことがなかった。屋敷には
クレアは俺達と話しながら周囲に一つずつ異なる属性の玉を浮かべ始めていた。「そこまで扱えるなら今更になるとは思いますが、一応おさらいとして軽く基本からお話ししましょうか。複数属性を同時に扱う一番のメリットは魔法同士の相乗効果を狙えることです。分かり易いのは火と風ですね。上手く扱えれば風で火の勢いを増すことができます。火と水なんかは相手の魔法を打ち消す使い方もしますが、同時に操る場合は水蒸気爆発させることもできます。これはかなり高威力で制御できないと上手くいきませんけど。三属性以上になるとさらにその効果や威力を強化できることが多いのですが、あまり実践で使われることはないみたいですね」 「そもそも三属性を扱える魔導士の数が多くありませんし、扱えたとしても制御難度が格段に上がりますから。失敗したら隙を晒すだけでなく味方に被害を及ぼす可能性まであるので実戦で使える魔導士は一握りでしょう。複雑になるほどその規模も大きくなりがちですし・・・」そう答えながらもカサネの目はクレアに釘付けになっている。 彼女は六つに増えた玉を近づけていき徐々に融合させていた。やがて一つになった玉は多少大きくなった程度だが、その内部では各属性が絡み合う様に影響しながらも調和を保っていた。「・・・ふぅ。これが六属性の同時制御、今回の最終目標です。私もこんなことは滅多にしないので少し緊張しましたけど」 「それ、もし何かにぶつけたらどうなるんだ?」 「これですか?これはあくまで見本として作ったので攻撃能力はあまりないですよ。この中庭にクレーターを作る程度でしょうか」何でもないことのように言ったが中庭は二、三十メートルほどはある。 そこにクレーターを作る威力と言うのはどれほどのものなのか。 しかもクレアさんはそれで攻撃能力はあまりないと言っているのだ。(・・・例の魔法よりクレアさんの全力の方が危険なんじゃないか?)思わずそんな考えが頭を過ぎった。しかしクレアさんの性格を考えればそもそもそんなことはしないだろう。「あの、それでそれはどうするの?」 「これですか?どうもしませんよ。最終的な目標を先に見て貰ったほうがイメージしやすい
ダンジョンから地上に戻ると時刻は既に夕方に近かった。 屋敷に戻るとクレアさんも学園から戻っていたようで、リビングで読書をしていた。「皆さんお帰りなさい。ダンジョンのほうはどうでした?」 「ただいま~しっかり魔法覚えてきたよ~!」 「それは良かったです。それなら明日からでも始められそうですね」クレアさんは普段日中は学園の為、魔法修練はその後ということになる。 まぁ一度教えを受けた後はそれを元に復習することはできるのかもしれないが。「あ、クレアさ・・・う~ん。ね、これから仲良くなるためにもお互い呼び捨てじゃだめかな?」 「え?はぁ、私は構いませんけどミアさんを呼び捨てにするのは流石にちょっと・・・」 「え~今の私はただの一冒険者だよ?歳だってほとんど変わらないし」 「いえ、そういうことではなくて。私、人を呼び捨てにすること自体がほとんどないので」ミアは王族であることを意識させないためにそう言ったが、クレアは別の理由で呼び捨てにするのは難しいと返した。 しかしミア諦めずに以前に聞いた内容からさらに疑問を投げかけた。「でも、スフィリムさんだっけ?のことは呼び捨てだったよね?」 「えぇ、まぁそう、ですね。あの子は友達の中でもちょっと特別なので」 「そっかぁ。流石に図々しすぎたかな。ごめんなさい」 「い、いえ。謝らないで下さい。私が普通じゃないだけだと思いますから」 「そんなことはないですよ。人それぞれだと思います。私も人を敬称無しで呼ぶのは苦手ですから」ミアの謝罪にクレアは慌ててそんなことを言ったが、そこにカサネが同意する形で二人の間を取り成していた。「うん。この話はまたいつか、かな。それはともかくクレアさんもやる気になってくれたみたいで嬉しいよ!」 「え?えぇ、やる気というか引き受けた以上はできる限りお手伝いさせていただくつもりですよ」 「う~ん、固いなぁ。まぁこれから仲良くなっていけば良いか。それじゃ、明日からよろしくね」 「はい。よろしくお願いします」 『あなた達、
翌日街で準備を終えた俺達は以前ダンジョンを見つけた森にやってきた。 ダンジョンが見つかったこともあってか、以前よりも人の姿が多いようだ。 カサネさんによると冒険者が増えたことで森の魔物の数が減り、それによって薬草や森の素材採取クエストをする低ランクの冒険者も入りやすくなったからだろうという話だった。「それじゃ、さっそくダンジョンに入ってみましょうか!」 「強敵が出現することもあるみたいですから、気を付けていきましょう」 「あぁ。街で買った拘束用の簡易トラップもあるしな。いざという時はこれを使ってさっさと逃げよう」そんな感じで、互いに軽く認識を合わせてからダンジョンに入った。 三階層くらいまでは道中の敵もそこまで強くはなく順調に進んでくることができていた。しかし、二人とも未だに新しい魔法を会得はできていないようだ。「ミア、どのくらいで魔法を覚えられるのかとかは分からないのか?」 「う~ん。お父様の話だと数日程度って言ってた気がするからもうすぐだと思うんだけど、、」一応聞いては見たが、やはりミアも正確なことまでは分からないらしい。 あのダンジョンを出てから今日までで既に四日は経っている。話の通りなら確かにそろそろ覚えても良い頃だろう。 そんなことを話しながら進んでいると5階層に降りる階段エリアに数人の怪我人が休んでいるのが見えた。彼らは俺達が来たのを見ると声を掛けてきた。「あんたら下に行くのは止めといたほうが良いぞ。5階層に今は徘徊種が出てるんだ」徘徊種、冒険者ギルドで聞いた階層に不釣り合いな強力な魔物のことだ。「あなた達は逃げなくて大丈夫なんですか?」 「薬を使い切っちまって碌に動けねえんだ。この状態じゃこの階層の魔物にも苦戦しそうだしな。動けるやつはギルドに応援要請を呼びに行った。まぁ、奴が上がってきたらそんなこともいってられねえだろうが」話からすると彼はその徘徊種と戦って敗走してきたようだ。 今のうちに聞いておいた方が今後役に立つかもしれない。 俺は彼らに回復薬を配りながらその魔物について聞くことにした。「そ
クレアさんに了承を貰った後、色々あったため説明不足となっていた部分、 先に呪文を覚えるためにダンジョンに潜ることを話し、今後の予定についてはそれが終わってからにさせて欲しいことを伝えた。「分かりました。私の方は学園以外は特に予定もありませんから、いつでもおっしゃってください」 「お願いしておいてなんですけど、学園の友達と遊びに行ったりとかは大丈夫なんですか?確か学園祭の時も賑やかな子が一緒でしたよね?」 「あぁ、スフィリムですね。確かにあの子はよく皆と遊びに行ったりしているみたいですけど、私は家の掃除をしたり本を読んだりしている方が落ち着くので」クレアさんはそう言って苦笑いを浮かべた。 シディルさんが困った顔をしながらも補足するように付け加える。「どうもこの子は内気でのう。わしも気になってはおるのじゃが、こればかりは本人にその気がなければ無理をさせても意味がないでな」 「なるほどね。じゃぁ、今度そのスフィリムって子も誘って四人で女子会をするっていうのはどうかしら?」 「女子会・・・ですか?」ミアの提案にクレアは目をぱちくりとさせて聞き返した。「そう!今回は魔法を教えて貰いに来たけど、それとは別でクレアさんと仲良くなりたいし、クレアさんも友達と一緒の方が気楽でしょ?だからその方が良いかなって。どうかな?」 「そう、ですね。スフィリムにも聞いてみないとですが、時間さえ合えば私は構いません。そういうのしたことないので、変なことを言ってしまうかもしれませんけど」 「いいのいいの。女の子同士で集まってお喋りしようっていうだけだから。それじゃ決まりね。練習の合間の良い気分転換にもなりそうだし楽しみね!」 「私もあまりそう言う経験はないので、お手柔らかにお願いしますね」少々強引な気もするがそう言うこと決まったようだ。まぁ彼女たちがそれで仲良くなれるなら良いことだろうと思った俺は何も言わなかった。 予定外に色々あったが当初の目的であった魔法の件は了承を得られたので、今日のところはそろそろお暇しようとしたところ、シディルさんから引き止められた。「なん
「さて、いきなりのことでのっけから話が横道に入ってしまったが、今回は何の用だったんじゃ?」魔道具の効果に満足したようで話を戻そうとしたシディルさんだったが、先ほどまで注目の的となっていたミアがそれに待ったを掛けた。「あの、ちょっと待って。シディルさん、言われるままに着てきたけどこれは譲って頂けるの?」 「ん?もちろんじゃ。そのために渡したんじゃからの。持っていくがええ」 「でも、その代金とかは?」これだけの魔道具だ。金額も相当のものになるだろう。ミアがいくら王女といっても旅に出ている現在はそんな大金をすぐに出せる訳もない。 不安そうに尋ねるミアに対し、シディルは気にした様子もなく答えた。「構わんよ。そなたの御父上には昔世話になったこともあるしの」 「お父様に?」 「うむ。王宮のパーティに参加したこともあるんじゃが覚えておらんかの?」 「・・・いえ、すみません」 「いや、十年以上前のことじゃからの。仕方あるまい。まぁそういう訳じゃからそれは遠慮なく持っていくといい」頭を巡らしたが思い出せず申し訳なさそうに謝るミアに、シディルは気にするなと言うように手を振りながらそう言った。 ミアはまだ少し気にするそぶりを見せていたが、今すぐに返せるものもないと諦めて、素直に頭を下げた。「はい。ありがとうございます。このお礼はいつか必ず」 「律儀じゃの。まぁ期待せずに待っとるよ」そのような感じで魔道具の件がひと段落したところで、俺は話題を元々の目的の件に戻した。「それでお伺いしたのはクレアさんに六属性の扱い方を教えて欲しかったからなんです」 「ほぉ。六属性の扱いとな」 「・・・えぇ?!私が教えるなんてそんな。私の技術なんて人様に教えるほどのものじゃありませんよ!」一瞬自分のことだと思わなかったらしく、クレアは驚くと同時に首をブンブンと振りながら否定するような答えを返した。「やれやれ。お前の力はわしも認めとるというに。まぁこの子の説得はあとでするとして、何故そんなものの扱いを学びに来たのじゃ?」 「えっと、